借り上げ社宅の退去費用は誰が払う?原状回復の負担区分と、退職時の精算の注意点

借り上げ社宅の退去費用は誰が払う?原状回復の負担区分と、退職時の精算の注意点

社宅を退去するときの原状回復費用は、会社と従業員のどちらが払うのか。負担の線引きと精算の進め方を整理します。

この記事の要点
  • 借り上げ社宅の借主は会社なので、退去費用は会社がいったん貸主に支払う。従業員との分担は社宅規程で決める。
  • 国土交通省のガイドラインでは、通常の使用による傷みと経年変化は貸主の負担、故意・過失による損傷は借主の負担とされている。
  • 借主が負担する場合も、壁紙などは経過年数で負担割合が下がる。クロスは6年で価値1円の前提で計算する。
  • 契約に通常損耗まで借主が負担する特約があるかを、借りる前に確認する。特約は内容が具体的に合意されていることが条件になる。
  • 退職時に給与から差し引くには労使協定が必要。一律の定額を決めておく定めは労働基準法第16条に触れるおそれがある。
目次

借り上げ社宅の退去費用は「会社と貸主」「会社と従業員」の二段階で決まる

借り上げ社宅では、貸主と賃貸借契約を結んでいるのは会社で、従業員は会社から部屋を借りて住んでいる立場です。そのため退去費用は、次の二段階に分けて考えます。

段階当事者何で決まるか主なルール
① 貸主への支払い貸主 ⇔ 会社賃貸借契約(特約を含む)民法第621条(通常損耗・経年変化は借主の原状回復義務の対象外)、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
② 従業員との分担会社 ⇔ 従業員社宅規程・入居時の誓約書労働基準法第16条(賠償額の予定の禁止)・第24条(賃金の全額払い)

①で会社が貸主に払う額が決まり、②でそのうちどこまでを従業員に負担してもらうかが決まります。①を確かめないまま②の話を進めると、本来は貸主が持つべき費用まで従業員に求めてしまうことがあります。まず貸主からの請求が妥当かを確かめ、そのうえで社内の分担を決めるという順番で進めます。

社宅規程の全体の作り方は社宅のルールはどう決める?(規程設計ガイド)で解説しています。本記事では退去費用に絞って、負担区分の考え方と精算の実務を整理します。

退去費用の内訳と、誰の負担になりやすいか

退去時に貸主から請求される費用は、おおむね次のとおりです。負担の考え方は国土交通省のガイドライン(再改訂版)に沿っています。

費用内容負担の考え方(ガイドライン)
原状回復(修繕)費壁紙・床・建具などの補修や張替え通常の使用による傷み・経年変化は貸主、故意・過失や通常を超える使用による損傷は借主
ハウスクリーニング費専門業者による部屋全体の清掃借主が通常の掃除をしていれば貸主。契約に借主負担の特約があれば借主
鍵の交換費次の入居者のためのシリンダー交換破損・紛失がなければ貸主。紛失した場合は借主が全額
契約で定めた費用解約時の事務手数料など、契約書に金額が書かれた費用契約の定めによる
退去日までの賃料解約予告期間に応じた賃料(日割りかどうかは契約による)契約の定めによる

このうち、退去のたびに揉めやすいのは原状回復費とハウスクリーニング費です。どちらも「通常の使い方で生じたものか」で負担が変わります。

通常の傷みと、従業員の責任になる損傷の線引き

ガイドラインの別表には、どちらの負担になるかの例が部位ごとに示されています。社宅の退去でよく問題になるものを抜き出すと、次のとおりです。

部位貸主の負担(通常の使用・経年変化)借主の負担(故意・過失、手入れ不足など)
床家具の設置によるへこみや跡、日照による畳の変色やフローリングの色落ち引越し作業で付けたひっかき傷、飲み物をこぼした後に放置してできたシミ・カビ
壁・天井テレビや冷蔵庫の裏の黒ずみ(電気ヤケ)、ポスターやカレンダーを留めた画びょうの穴重量物を掛けるために開けた、下地ボードの張替えが要るくぎ穴・ネジ穴、落書き、結露を放置して広がったカビ
台所・水回り通常の掃除をしていて残る程度の汚れ掃除を怠ったことによる油汚れやスス、水回りの汚れ
喫煙—居室全体のクロスがヤニで変色したり、臭いが付いたりした場合の、居室全体のクリーニング・張替え
設備・鍵設備の寿命による故障、破損や紛失のない鍵の交換手入れ不足や使い方の誤りによる設備の故障、鍵の紛失

線引きの基準は「その部屋に住めば誰でも生じるものか、その人の使い方で生じたものか」です。入居時に部屋の状態を写真で残しておくと、退去時に「最初からあった傷か」で揉めずに済みます。ガイドラインにも入退去時の確認リストの例が載っており、社宅の入居手続きに組み込んでおくと便利です。

入居時に撮っておく箇所の例は次のとおりです。日付が分かる形で保存し、会社と従業員の双方で持っておきます。

  • 床:フローリング・畳・カーペットの傷、へこみ、シミ、色あせ
  • 壁・天井:クロスの破れ・汚れ・はがれ、くぎ穴やネジ穴、カビ
  • 建具:ドア・ふすま・網戸・窓ガラスの傷や破れ、開け閉めの具合
  • 水回り:キッチン・浴室・洗面台・トイレの汚れ、水漏れの跡、換気扇の汚れ
  • 設備・備品:エアコンや給湯器などの動作、家具家電付きの部屋は備品の傷や欠け
  • 鍵:受け取った本数

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従業員の負担分も、経過年数で小さくなる

故意・過失による損傷であっても、借主が新品の費用をそのまま負担するわけではありません。ガイドラインは、設備や内装の価値は年数とともに下がるという考え方をとっており、壁紙(クロス)やカーペットは6年で価値が1円になる前提で負担割合を計算します。

計算例:従業員の過失で、壁一面のクロスを張り替える場合

張替え費用を5万円とします(数値は説明のための仮のものです)。新築や張替え直後に入居したとすると、退去までの年数による借主の負担の目安は次のとおりです。

入居から退去までの年数残っている価値の割合借主の負担の目安
2年約3分の2約33,000円
4年約3分の1約17,000円
6年以上ほぼゼロ(1円)原則として負担なし

入居時にクロスが既に数年経っていた場合は、その年数を足して計算します。ただし、6年を過ぎていても、落書きのように故意に傷めたものを元に戻す工事の手間賃などは、借主の負担になることがあるとされています。

一方で、経過年数を考えないものもあります。

  • 畳表・ふすま紙・障子紙:消耗品として扱われ、経過年数は考慮しない。傷めた人が張替え費用を負担する
  • フローリングの部分補修:経過年数は考慮しない。床全体を張り替える場合は、建物の耐用年数で考慮する
  • 鍵の紛失:経過年数は考慮せず、シリンダーの交換費用を借主が全額負担する
  • ハウスクリーニング:経過年数は考慮しない。通常の掃除をしていなかった場合に、清掃費用を借主が負担する

負担する範囲も、原則は傷んだ部分に限られます。クロスなら㎡単位が望ましく、傷を含む一面分までは借主の負担としてもやむを得ないとされています。部屋全体の張替え費用がそのまま借主に請求されている場合は、内訳を確かめる価値があります。

契約に「特約」があると、負担が変わる

賃貸借契約に、ハウスクリーニング費や通常の傷みの補修費を借主が負担する特約が入っていることがあります。この場合、会社は特約に従って支払うことになります。

ただし、通常の傷みまで借主に負担させる特約は、どんな書き方でも有効になるわけではありません。最高裁判所は平成17年12月16日の判決で、負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に書かれているか、貸主が口頭で説明して借主がはっきり認識したうえで合意していることが必要だと示しています。ガイドラインも、特約が認められる条件として次の3つを挙げています。

借主に特別な負担を課す特約の要件(ガイドライン)
  • 特約の必要性があり、暴利的でないなど、客観的・合理的な理由があること
  • 借主が、通常の原状回復義務を超えた修繕などの義務を負うことを認識していること
  • 借主が、特約による義務を負う意思表示をしていること

社宅として借りる物件では、契約前に特約の有無と金額を確かめ、社宅規程の負担区分と食い違わないかを見ておきます。特約で会社が負担することになる費用を、規程で従業員に転嫁できるかは、次の章の考え方によります。

会社と従業員の分担は、社宅規程で先に決めておく

貸主に払う額が決まったら、そのうち従業員に負担してもらう分を社宅規程に沿って決めます。退去の時点で初めて話し合うと、金額の根拠をめぐって揉めやすくなります。規程には少なくとも次のことを書いておきます。

  • 負担区分:通常の使用による傷み・経年変化は会社、故意・過失や通常を超える使用による損傷は従業員、とガイドラインに沿って定める
  • 経過年数の扱い:従業員の負担は、ガイドラインの経過年数の考え方で計算すると定める
  • 特約の費用:ハウスクリーニング費など契約の特約で会社が払う費用を、会社と従業員のどちらが持つか
  • 喫煙・ペット:認めるかどうかと、認める場合の原状回復の負担
  • 入居時・退去時の確認:部屋の状態を写真で記録し、退去時は会社の担当者も立ち会うか、管理会社の報告を受けて確認する
  • 精算の方法:従業員の負担分の請求方法と支払い期限、給与から控除する場合の手続き

なお、規程で従業員の負担と決めた損傷の費用を、会社が請求せずに肩代わりすると、その額が従業員への経済的な利益として給与課税の対象になることがあります。請求しない運用にする場合は、税理士に扱いを確認してください。

退職時の退去費用の精算で注意すること

社宅の退去は、退職のタイミングと重なることが少なくありません。精算を急ぐあまり、給与から差し引いたり、あらかじめ決めた額を請求したりすると、労働基準法の問題になることがあります。

やりがちなこと何が問題か代わりにすること
最後の給与から退去費用を差し引く賃金は全額払いが原則で、法令の定めか労使協定がなければ控除できない(労働基準法第24条)労使協定に社宅費用の控除を定め、金額と内訳を示して書面で同意を得る。協定がなければ給与とは別に請求する
「退職時は一律10万円」と規程で決めておく実際の損傷と関係なく金額を決めておく定めは、損害賠償額の予定の禁止(労働基準法第16条)に触れるおそれがある実際にかかった費用のうち、本人の責任の分だけを請求する
貸主の請求額をそのまま本人に回す通常の傷みや経年変化の分まで本人に負担させることになりやすい貸主の請求を項目ごとに確かめ、本人の責任の分を経過年数で計算してから示す

退職者の明け渡しの期限や手続きは、社宅のルール設計ガイドで触れているとおり、入居時に規程と誓約書で合意しておくと進めやすくなります。

貸主から届いた請求書で確かめること

会社が貸主に払う前に、請求書を次の点で確かめます。ここで減らせた分は、そのまま会社と従業員双方の負担を減らします。

  • 項目ごとに、単価・数量・施工範囲が書かれているか(「原状回復一式」だけになっていないか)
  • 家具の跡や電気ヤケなど、通常の使用による傷みが含まれていないか
  • クロスやカーペットに、経過年数が反映されているか
  • 部屋全体の張替えになっていないか。傷んだ部分(クロスは一面まで)に限られているか
  • 特約による費用は、契約書のどの条項に基づくか、金額が契約時の説明と合っているか
  • 敷金を預けている場合、未払い賃料や原状回復費を差し引いた残りが返還されるか(民法第622条の2)

支払った原状回復費は、会社では修繕費として経費にするのが一般的です。仕訳の考え方は社宅の経費処理まとめ(勘定科目・仕訳例・消費税)を参照してください。

退去のたびの精算を減らす社宅の選び方

退去費用の手間は、人が入れ替わるたびに発生します。出張者や研修生、外国人社員のように入れ替わりの多い社宅では、退去時の費用があらかじめ決まっている物件や、人が替わっても契約を続けられる物件を選ぶと、精算の回数そのものを減らせます。

クロスハウスの法人向け社宅サービスでは、家具家電付きアパートメントとシェアハウスを、法人名義で契約できます。退去時にかかる費用として解約事務手数料(家具家電付きアパートメント55,000円、シェアハウス16,500円。いずれも税込)が定められており、社宅の予算に組み込みやすくなっています。この手数料は、会社とクロスハウスとの契約で定めた退去時の費用で、会社が従業員との間で損害の賠償額をあらかじめ決めておくこと(前の章の労働基準法第16条の話)とは別のものです。法人契約では、同じ部屋のまま入居者を入れ替えることがメール1本・無料ででき、物件や部屋を移る場合も移動前の物件の解約事務手数料と移動先の初期費用はかかりません。

入居時の費用は、敷金・仲介手数料がかからず、初期費用(シェアハウス3万円、家具家電付きアパートメントは通常5万円・キャンペーン適用時3万円)だけです。法人契約では保証会社への加入も不要です。月額では、家具家電付きアパートメントはあんしんサポート料月1,500円(税込)と水道光熱費、シェアハウスは共益費月15,000円(水道光熱費・共用備品込み)がかかります。部屋ごとの契約条件は、お申し込みの前に契約書の内容でご確認いただけます。

家具家電付き賃貸を社宅に使う場合の費用の全体像は法人向け家具家電付き賃貸ガイド、借り上げ社宅の仕組みそのものは借り上げ社宅とはで解説しています。

よくある質問

社宅の退去費用は、会社と従業員のどちらが払いますか?

借り上げ社宅では、貸主と賃貸借契約を結んでいるのは会社なので、貸主への支払いはまず会社が行います。そのうえで、従業員の故意・過失や通常の使い方を超える使用で生じた損傷の分を、社宅規程に基づいて従業員に負担してもらうのが一般的です。通常の使用による傷みや経年変化は、国土交通省のガイドラインでは貸主の負担とされています。

入居4年で退去する場合、壁紙(クロス)の張替え費用はどのくらい従業員の負担になりますか?

ガイドラインでは、クロスは6年で価値が1円になる前提で負担割合を計算します。従業員の過失で張替えが必要になった場合でも、入居4年なら残りの価値は約3分の1で、張替え費用の約3分の1が目安です。範囲も原則は傷んだ部分(㎡単位)で、傷を含む一面分までとされています。ただし、入居時点で既に経過していた年数がある場合は、その年数から数えます。

退去時のハウスクリーニング代は従業員に請求できますか?

ガイドラインでは、従業員がゴミの撤去や拭き掃除、水回りや換気扇の油汚れの除去といった通常の掃除をしていれば、専門業者による全体のクリーニングは貸主の負担とされています。ただし、賃貸借契約にクリーニング費用を借主が負担する特約があれば、会社が支払うことになります。その費用を従業員にも負担させるかどうかは、社宅規程で決めておく事項です。

退去費用の従業員負担分を、最後の給与から差し引いてもよいですか?

賃金は全額を支払うのが原則で、法令の定めか労使協定がなければ給与から差し引けません(労働基準法第24条)。労使協定に社宅の費用の控除を定めたうえで、金額と内訳を従業員に示し、書面で同意を得てから控除するのが安全です。協定がない場合は、給与とは別に請求する方法になります。

「退職時は退去費用として一律10万円を負担する」と社宅規程に決めてもよいですか?

実際の損傷と関係なく金額をあらかじめ決めておく定めは、損害賠償額の予定を禁じる労働基準法第16条に触れるおそれがあります。従業員に求めるのは、実際にかかった費用のうち本人の責任の分に限るのが基本です。規程の文言は社会保険労務士などの専門家に確認してください。

タバコのヤニ汚れは誰の負担になりますか?

ガイドラインでは、喫煙で居室全体のクロスがヤニで変色したり、臭いが付いたりした場合は、その居室全体のクリーニングや張替え費用を借主の負担とするのが妥当とされています。社宅で喫煙を認めるかどうかと、認める場合の負担のルールを、規程で決めておくと揉めにくくなります。

社宅の退去費用は、会社の経費になりますか?

会社が借主として貸主に支払う原状回復の費用は、修繕費として経費に計上するのが一般的です。従業員から負担分を受け取った場合は、その分の処理も必要になります。勘定科目や仕訳の考え方は「社宅の経費処理まとめ」をご覧ください。

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本記事は、退去費用の負担に関する一般的な考え方を紹介したものです。計算例の金額は説明のための仮の数値です。個別の請求が妥当かどうかや、社宅規程・給与からの控除の扱いは、弁護士・社会保険労務士・税理士などの専門家にご相談ください。法令・ガイドラインは2026年10月時点の内容によります(国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月、民法第621条・第622条の2、労働基準法第16条・第24条、最高裁判所平成17年12月16日判決)。

まとめ

借り上げ社宅の退去費用は、会社が借主として貸主に支払い、そのうち従業員の故意・過失による損傷の分を社宅規程に沿って従業員に負担してもらうのが基本です。通常の使用による傷みと経年変化は貸主の負担で、従業員の負担になる損傷もクロスなら6年で価値1円という経過年数で小さくなります。契約前に特約を確かめ、規程で負担区分と精算の方法を決め、入居時に部屋の状態を記録しておくことが、退去時に揉めないための準備です。退職時は、給与からの控除や一律の定額の請求に注意してください。入れ替わりの多い社宅の手配を検討している場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。

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