家賃の値上げは、オーナーの一存で決められるのでしょうか。認められる理由と、通知から合意までの進め方を整理します。
- 家賃の値上げは請求できるが、オーナーが一方的に決めることはできない。入居者の合意か、裁判の確定が必要(借地借家法第32条)。
- 認められる理由は、税負担の増加・経済事情の変動・周辺相場との差の3つ。客観的な資料で示す。
- 進め方は「相場と根拠の確認→契約書の確認→書面で通知→協議→合意の書面化」の5段階。
- 合意できなくても、入居者は従来の家賃を払えば足りる。値上げ拒否だけを理由に退去は求めにくい。
- 話し合いで決まらなければ、訴える前に簡易裁判所の調停を申し立てる(民事調停法第24条の2)。
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賃料の見直しを無料で相談する家賃の値上げは「請求」できるが、一方的には決められない
固定資産税や修繕費が上がり、周辺の家賃も上がっているのに、入居中の部屋の家賃は何年も据え置き。そう感じたオーナー様が値上げを考えるのは自然なことです。根拠になるのは借地借家法第32条の「借賃増減請求権」で、今の家賃が不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、将来に向かって家賃の増額を請求できると定めています。
ただし、請求したからといって家賃が自動的に上がるわけではありません。新しい家賃が決まるのは、入居者が合意したときか、裁判で確定したときです。オーナーが通知を出しただけで、翌月から値上げ後の額を当然に請求できるわけではない点を、最初に押さえておきます。
また、契約の内容によっては第32条がそのまま使えない場合があります。
- 一定期間は値上げしない特約がある:その期間中は特約が優先します(第32条第1項ただし書き)
- 定期借家契約で賃料の改定方法を特約で決めている:第32条は適用されず、特約どおりに改定します(第38条第9項)
- 普通借家契約で「賃料は○年ごとに協議して改定」などの定めがある:まずはその手続きに沿って協議します
値上げが認められる3つの理由
第32条は、家賃が不相当になる理由として次の3つを挙げています。値上げを申し入れるときは、どれに当たるかを資料で示せるようにしておきます。
| 条文の理由 | 具体例 | 用意したい資料 |
|---|---|---|
| 土地・建物の租税その他の負担の増加 | 固定資産税・都市計画税が上がった | 固定資産税の課税明細書(過去分と比べる) |
| 土地・建物の価格の上昇など経済事情の変動 | 地価の上昇、物価の上昇 | 公示地価・路線価の推移、物価の統計 |
| 近くの同じような建物の家賃と比べて不相当 | 周辺で同じ広さ・築年数の部屋の募集家賃が上がっている | 周辺の募集事例(広さ・築年・駅距離をそろえて数件) |
オーナー側の事情、たとえばローンの金利が上がった、自分の生活費が増えたといった理由だけでは、値上げの根拠になりにくいと考えてください。入居者にとって納得できるのは、周辺の家賃と比べて今の家賃が安いという比較です。設備の入れ替えや共用部の改修をした場合も、それ自体は条文の理由ではありませんが、話し合いの材料として示すことはできます。
家賃の値上げを進める5つのステップ
1. 周辺相場と根拠を確かめる
最初に、今の家賃が本当に安いのかを確かめます。同じエリアで、広さ・築年数・駅からの距離が近い部屋の募集家賃を数件集め、平米あたりの単価で比べると差が分かりやすくなります。管理会社に依頼すれば、成約事例を含めて調べてもらえることもあります。相場との差が小さいなら、値上げより先に、空室を出さないことを優先したほうが手残りは増えるかもしれません。
2. 契約書を確認する
値上げをしない特約がないか、定期借家か普通借家か、賃料改定の時期や手続きの定めがあるか、次の更新はいつかを確認します。更新のときに合わせて申し入れると、入居者も条件の見直しとして受け止めやすくなります。
3. 書面で通知する
口頭だけで済ませず、書面で通知します。後で「聞いていない」とならないよう、記録が残る形にするのが基本です。話し合いがこじれそうな場合や、いつ請求したかを明確にしておきたい場合は、内容証明郵便を使う方法もあります。ただ、最初の案内からいきなり内容証明を送ると、入居者が身構えて話し合いが進みにくくなることがあります。
4. 入居者と協議する
通知を出したら、入居者の意見を聞きます。一度に上げず2回に分ける、値上げと合わせて設備を新しくする、更新料などほかの条件と合わせて調整する、といった歩み寄りの余地を用意しておくと合意に近づきます。入居者が退去すれば、空室期間・原状回復・募集の費用がかかります。値上げ額と退去された場合の損失を並べて、どこまで譲れるかを先に決めておくと判断がぶれません。
5. 合意した内容を書面にする
合意できたら、新しい家賃の額と適用開始日を覚書などの書面にまとめ、双方で署名・押印します。更新のタイミングなら、更新契約書に新しい家賃を記載します。
通知書に書いておく項目
- 物件名・部屋番号と、契約者の氏名
- 現在の家賃と、改定後の家賃(共益費・管理費を変える場合はその額も)
- 改定後の家賃を適用する開始日
- 値上げの理由(税負担の変化、周辺相場との比較など)
- 回答の期限と、問い合わせ先
理由の欄は、「諸般の事情により」だけで済ませないほうが合意を得やすくなります。周辺の募集事例や税額の変化など、入居者が確かめられる事実を短く添えます。
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周辺相場の確認を相談する入居者が値上げに応じないとき
合意できるまでは、従来の家賃を受け取る
話し合いがまとまらない間、入居者は値上げを正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と考える額を払えば足ります(借地借家法第32条第2項)。多くの場合は従来の家賃です。ここでオーナーが受け取りを拒むと、入居者は法務局に供託できます(民法第494条)。従来額は受け取っておき、後で値上げが確定すれば、不足分に年1割の利息を付けて払ってもらう形になります。
値上げ拒否だけを理由に退去は求めにくい
オーナーから更新を拒んだり、解約を申し入れたりするには、正当の事由が必要です(借地借家法第28条)。正当の事由は、オーナーと入居者それぞれが建物を使う必要性や、これまでの経過などを考えて判断されるもので、値上げに応じないことだけでは認められにくいと考えてください。退去をちらつかせて値上げを迫るのは、かえって関係をこじらせます。
話し合いで決まらなければ、調停を申し立てる
家賃の増額をめぐって訴えを起こすときは、先に調停を申し立てる決まりになっています(民事調停法第24条の2)。申し立て先は、原則として物件の所在地を管轄する簡易裁判所です(同第24条)。調停では、調停委員が間に入って双方の言い分を聞き、合意を目指します。それでもまとまらなければ、訴訟で決めることになります。
調停や訴訟には時間と費用がかかり、不動産鑑定が必要になることもあります。月数千円の値上げのために争うと、手間のほうが大きくなりがちです。争う前に、値上げで増える収入と、かかる費用・時間を比べてください。
値上げの前に比べておきたい選択肢
入居中の部屋の家賃を上げるのは、合意が必要なぶん時間がかかります。収入を増やす方法はほかにもあるので、並べて比べると判断しやすくなります。
| 方法 | 向いている状況 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 入居中の部屋の値上げ | 周辺相場と比べて明らかに安く、根拠の資料をそろえられる | 合意が必要。退去された場合の空室損失 |
| 退去後の募集家賃の見直し | 入れ替わりが定期的にあり、募集のたびに相場を反映できる | 相場より高すぎると空室期間が延びる |
| 家具家電付き賃貸への転換 | 単身向けの間取りで、一般の募集では家賃が上がりにくい | 家具家電の初期費用と入れ替えの手間 |
| 借り上げ(サブリース)・法人の借り上げ社宅 | 空室の波を減らし、収入を安定させたい | 賃料の見直し条件を契約書で確認する |
入居者と定期借家契約を結んでいる場合は、契約期間が終わるたびに、再契約の条件として賃料を見直せます。普通借家契約のように、入居中に値上げの合意を取り付ける必要はありません。クロスハウスでは、入居者と定期借家契約を結んでいます。
退去後の募集家賃は、入居中の値上げと違って合意を待たずに市場に合わせられます。家具家電付きにして賃料を見直す方法は空室アパートを家具家電付き賃貸に転換する進め方、企業に貸す方法は借り上げ社宅として企業に貸し出す方法で解説しています。空室が長引いている場合は、先にアパートの空室が続くときの原因診断で原因を確かめてください。
借り上げ(サブリース)を検討する場合は、賃料の見直しの条件を契約前に確認してください。仕組みはサブリースとは?仕組みと注意点、管理委託との違いは管理委託とサブリースの違いをご覧ください。
※サブリース(借り上げ)契約に関するご注意:契約期間中でも、経済事情の変動等を理由に運営会社からオーナー様へのお支払い賃料の減額を請求される場合があります(借地借家法第32条)。オーナー様からの中途解約には正当な事由を要する場合があるほか、免責期間・原状回復や修繕費の負担区分などの条件は、契約時に賃貸住宅管理業法に基づく重要事項説明で書面にてご確認いただけます。
よくある質問
- 家賃の値上げが認められる「正当な理由」とは何ですか?
-
借地借家法第32条は、①固定資産税など土地・建物の負担が増えた、②土地・建物の価格の上昇など経済事情が変わった、③近くの同じような建物の家賃と比べて安すぎる、のいずれかで今の家賃が不相当になった場合に、値上げを請求できるとしています。オーナー側の事情(ローン金利の上昇など)だけでは理由になりにくく、周辺の家賃相場や税負担の変化など、客観的な資料で示すことが大切です。
- 家賃の値上げは、いつまでに入居者へ通知すればよいですか?
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法律で通知の期限は決まっていません。値上げは「将来に向かって」請求するもので、さかのぼって上げることはできません。実務では、更新の数か月前に書面で知らせ、入居者が検討する時間をとるのが一般的です。契約書に賃料改定の時期や手続きの定めがあれば、そちらに従います。
- 家賃は何割まで上げられますか?
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法律に上限の割合はありません。認められるかどうかは、値上げ後の家賃が周辺の同じような物件の家賃や税負担の変化に照らして相当かどうかで決まります。相場から大きく外れた値上げは、合意も得にくく、調停や裁判になっても認められにくくなります。一度に上げず、段階的に改定する方法もあります。
- 入居者が値上げを拒否したら、退去してもらえますか?
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値上げに応じないことだけを理由に退去を求めるのは難しいと考えてください。オーナーから更新を拒んだり解約を申し入れたりするには、正当の事由が必要です(借地借家法第28条)。合意できないときは、話し合いを続けるか、簡易裁判所の調停で解決を図ります。
- 合意できない間、家賃はいくら受け取ればよいですか?
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入居者は、値上げを正当とする裁判が確定するまで、自分が相当と考える額(多くは従来の家賃)を払えば足ります(借地借家法第32条第2項)。オーナーが受け取りを拒むと、入居者は法務局に供託できます(民法第494条)。従来額は受け取っておき、値上げが確定したときは不足分に年1割の利息を付けて精算してもらう形になります。
- 契約の途中でも家賃を値上げできますか?
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借地借家法第32条の請求は、更新のときに限られません。ただし、一定の期間は値上げしないという特約がある場合はそれに従います。定期借家契約で賃料の改定方法を特約で決めている場合は、第32条ではなくその特約が適用されます(第38条第9項)。まず契約書を確認してください。
法令に関する内容は、制度の概要を紹介したものです。個別の契約への当てはめや、入居者との紛争については、弁護士などの専門家にご確認ください。法令は2026年10月時点の内容によります(出典:e-Gov法令検索 借地借家法・民事調停法・民法)。
まとめ
家賃の値上げは借地借家法第32条で請求できますが、決まるのは入居者が合意したときか、裁判で確定したときです。理由は税負担の増加・経済事情の変動・周辺相場との差の3つで、とくに周辺相場との比較を資料で示すことが合意への近道になります。進め方は、相場と根拠の確認、契約書の確認、書面での通知、協議、合意の書面化の5段階です。合意できなくても退去を求めることは難しく、争う場合は調停から始まります。値上げで増える収入と、退去や紛争のコストを比べ、募集家賃の見直しや貸し方の転換も含めて判断してください。周辺相場と比べた家賃の見直しや、貸し方の転換を検討したいという場合は、オーナー様向けのお問い合わせフォームからご相談ください。
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